星楔のヴァリアシオン
幻蝶は星、想花は風
寂しい、色。孤独の色にも見える碧の奥から、声が聞こえる。
誰の声なのかも今は知りもしないが、それはなんだが自分とよく似ていた、気がした。
泣いているのかい、なんて聞いても声は返すことはなく、姿をこちらに現すこともない。
ただただ、誰かを責めるわけでもなく。ただただ、誰かを嘆くわけでもなく。
その叫びのような、刹那の声は静寂の碧の中で、悲壮を奏でたのだ。
───ただこの世界で、生きることだけを赦されたい。
がたごと、馬車の音。白の髪がそれにあわせて揺らめく。
見覚えのある視界。狭い空間だ。
ああ、寝てたのだなとメルセウスは理解した。揺れる景色が現実へと引き戻したのだ。
小さな窓を覗けば、広がる天色と紺碧の色。
ふたつの色は決して交わることはなく、世界に境界線なんて描いているものだ。
がたごと、流れるふたつの色と共に視界に入る、そびえ立つ白の色。
この世界、星の祝福を施されている蒼星祈聖界クロムウェル。
さて、この世界はどんなものなのか。メルセウスは近付きつつある景色を金の瞳に写し思う。
メルセウスがクロムウェルに来たのも、特に理由があるわけではない。
幾度の世界を渡り歩く旅路に、ちょうどクロムウェルがあった、ただそれだけのこと。それだけのことなのだ。
そうして、今向かっている先が、クロムウェルでは主要国、とされているアスルアス聖国、という国。
海の近くにあり、そしてこの世界の神──誓花神とも呼ばれるアルティリアという女神の祝福が最も強いとされていて。
魔法化学が特に発展しており、星が特に綺麗に見える国、でもあるそうな。
それが、メルセウス聞いたアスルアス聖国、であったが、妙な違和感を覚える、それは───。
ごとん。大きな揺れが、それっきり。刹那の静寂。
ああ、着いたのだなと、それでメルセウスは察する。声をかけられれば、それに声で応じたりなんかも。
お代を渡して、いざ目の前の光景を視界に入れる。
白。この世界では“祝福を与える星の色”として有難い色なんだそう。
白が並ぶのを見て、メルセウスはそんなことを、思い出す。
「──さて、この世界はどんな物語を見せてくれるのかな」
メルセウスという魔術師が第一歩を始めた瞬間であった。
誰も知らない、けれども確かにあった物語。
