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雪夜のロンド

さよなら、私の愛した世界

 人によっては、今宵の星はきらり、きらりと瞬いているのだろうか。それともはぴかぴかと光っているのだろうか。
 星詠にとっては、どちらでもない。星は、まるで人々に呼びかけるようにきらめいているのだ。
 星はいつだってそうだ。誰よりも、何よりも近くに世界というものにいる。きらめきの星光を見上げ、星詠は思う。

 だけど、星は人に忘れられる。例え賛美をされていたとしてもそれはひとときの間。星光が見えなくなったら皆、忘れてしまうものだ。
 だからだろうか。星というものに親近感というものを感じるのは。かつての栄光。古の世界。遥か遠くの記憶。それらを廻るように思い起こす。それらも、全て忘れ去られてしまった過去の話だ。
 皇神ユーディオン。それがかつての彼の名前。
 彼は確かに神々の中の王であった。宇宙を統べるほどの神であった。だが、それもすぐには。

 そこで星詠を思いを廻らせるのをやめた。もう過去のことだ、過ぎたことを思い返してもしょうがない。
 確かにあの時、自分は若き神である“ゼウス”の名を持つ神が築き上げる世界を見届けた。自分の築き上げた世界は終焉を迎えたのだと、知った。
 今の自分は、宇宙ですら統べることができる皇神ではなく、ただ1人の男“星詠”なのだ。

 もうすぐ夜が明ける。辺りが暁から黎明へと変わりゆく。もう星々は過ぎ去っていくのだろう。
 いや、姿かたちは見えなくても星々たちはいつだってそばにいる。だから。
 星詠はきらめく星光が薄まっていき、陽の光が登り始める景色を見る。
 星々たちはいつだって傍にいる。
 だから、寂しくなどはない。悲しくもない。星光のきらめきがある限り、彼はきっと前を向いていけるのだろう。

 ──さよなら、私の愛した世界。
 それは、夜明けと共に

Astellas

© Astellas